民宿 奥川入 横山家の皆さん
宿に着くと「上がって待っててください」と女性の声。茶の間には、熊の毛皮や何か動物の頭蓋骨が飾られている。雑然とした室内で待っていると、日焼けした強面の男性が現れた。4代目マタギのご主人だった。人見知りで、初対面のため口数も少なかったけど、夜になったら撮りためた自分が出演したTV番組を自慢げに見せてくれて盛り上がりました。
代々続くマタギ一家の4代目と5代目、それを支える明るい奥様。横山家の皆さんから色々とお話を伺いました。
山形県小国町の飯豊山の麓に佇む民宿奥川入。ここを訪れる人々を温かく迎えてくれるのは、横山家の皆さんです。日焼けした顔で、少し強面に見える4代目マタギの隆藏さん。その横で、優しい笑顔が印象的な妻の尚美さん。そして、家業を継ぐ決意を固めた長男の拓さん一家。彼らに会うため一年を通じて多くのリピーターが訪れる人気の宿です。
隆藏さんは、マタギとしての知識と経験が豊富なため沢山のメディアから取材を受けています。現在は、5代目となる息子の拓さんと共に親子マタギとして活動。彼らは山に分け入り、クマやイノシシを捕獲しますが、それは単なる狩猟ではありません。
「彼ら(クマ)には彼らの暮らしがある。自分達には、自分達の暮らしがある。お互いに共存することが大切。」という隆藏さんの言葉には、自然との共生や命をいただくことへの深い感謝の念が込められています。この哲学は、息子の拓さんにも受け継がれています。
拓さんは「生き物が生き物じゃなくなる瞬間を見たことがないのは、損だと思う。みんな何を食べてるのか本当の意味では、わかってないんじゃないかな。」と語り、現代社会で失われつつある、食と命の本質的なつながりを見つめ直す重要性を説いています。
隆藏さんの人生は、故郷と都会を行き来する波乱に富んだものでした。小学4年生の時、出稼ぎの両親と共に埼玉県所沢市で暮らすことになりました。高校卒業後は日本料理店で腕を磨きましたが、21歳で故郷に戻り、現在の民宿を開業。マタギの技術を活かしたジビエ料理が評判を呼び、徐々に客足が増えていきました。
30歳の時、運命的な出会いが訪れます。近くの旅館で働いていた尚美さんとの出会いです。二人は結婚し、やがて二人の子宝に恵まれました。現在では、家族三人で力を合わせ民宿業はもちろん、農業、地鶏の養鶏、そしてマタギとしての活動と多岐にわたる仕事をこなしています。日々は慌ただしくも充実しており、自然と共に生きる喜びに満ちています。
奥川入は、単なる宿泊施設ではなく自然との共生、伝統の継承、そして家族の絆を体現する場所となっています。訪れる人々は、横山家の温かいもてなしと共に、日本の山村に息づく豊かな文化と知恵に触れる貴重な経験ができるでしょう。